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美しい化け物

面白かった~

国宝 (上) 青春篇

吉田修一/朝日新聞出版


国宝 (下) 花道篇

吉田修一/朝日新聞出版



一時期色んな雑誌や書評で取り上げられていました、国宝。めちゃめちゃ面白かったです。ヤクザの息子と、梨園の跡取り息子が、お互い切磋琢磨しあいながら、日本一の女形を目指す物語…と書くと、なんか青春もので爽やかな匂いすらするんですけど、まあ吉田修一さんの作品ですからね。描かれているのは業です。才能とか血筋とか、そういうものに打ちのめされて、光を浴びては、地獄に落ちて、そして這い上がっていく男達の姿です。
今回記事タイトルにした「美しい化け物」については、そんなふたりが日本一の女形といわれている役者の舞台を見て「こんなん女形とちゃう。化け物や」「せやな…化け物や。せやけど、美しい化け物や」(原文とは違うかもしれません)と言葉を交わす場面…この、日本一の女形とされていた人の最期も、非常に印象深くて心に残っています。もしかしたら本作で一番心に打たれたシーンかもしれない。「美は力だ」というのも本作のテーマの一つだと思うので、そのテーマが琴線に来る方には大変におすすめ。

悲しいけれど、綺麗なお話だった…

王国の子(9) (KCx)

びっけ/講談社


代々イギリス王室には、王の影武者がいて…という前提の、エリザベス女王の物語。ずっと最初から今回のラストか、あるいは逆に…(読んでいる方は理解してくださると思う)のどちらかの結末を迎えるんじゃないかとうっすら考えていたけれど…こっちだったか…そうか…(落涙)
二人は両思いなのに、本当に最期の最期までお互いに対して甘い言葉なんて吐かなくて、お互いを律しながら尊敬しながら触れ合ってる感じが、凄く好きでした…なんて切なくて綺麗な恋の形なんでしょうか…(ううう)

めちゃくちゃ面白いです~

呪術廻戦 0 東京都立呪術高等専門学校 (ジャンプコミックス)

芥見 下々/集英社


いや~連載版も最新刊まで読んだんですけど、ちょう面白いです…。要はメンタル劇強系の主人公が、鬼を体の中に取り込んでしまい、その力で呪術高校に入学してあれやこれや…って話なんですけど、「強さ」の表現が大変上手で気持ちいい上に、主人公も、悪役もどっちのサイドもみんなかっこいいんですよね…
3巻以降ではじまる「悪い大人のくいものにされてしまうわるいこども」の話も、とてもよかったです…善悪についての主人公の倫理もとても好きなのかもしれない。少年漫画の主人公はみんなそうなのかもしれないけれど「許せないこと」を「許さない」ためにみんな行動しているのがいいんですよね。くいものにされてしまう子どもの側でさえ。
そしてここに貼った前日譚も滅茶苦茶面白くて…というか前日譚はとにかく主人公の「覚醒後」の色っぽさがハンパないし、呪いの正体の事を思うと色々考えて切なくなります(私は永遠の仔を思い出しました)本編でもいっぱい出てきてくれ…


さて瀬戸壬生コネタ。明るい話が書きたいといいましたが、あれは嘘だ(結果的に)
だいぶ尻切れトンボです。


──あ~あ。
 隣で寝息を立てる男の顔を見て、真っ先に浮かんできた落胆の声に、壬生屋は直ちに激しい自己嫌悪に陥った。今のは本当に自分の思考だろうか。愕然とする一方で、これは間違いなく自分の本音だろうとも思う。最低だ、という燃えるような羞恥心は、先ほどまでの熱狂を遠ざけるには充分だった。愛された夢のような記憶は、素肌の下で冷え固まっていく。腰に纏わりつく男の掌だけが、奇妙に熱い。
 昨日まで二人は、クラスメイトで喧嘩友達だった。時々本気の喧嘩になってお互い気まずくなることはあったけれど、知り合った頃に比べればだいぶ親密になったはすだ。でもこうなってしまっては、二人はもう『友達』ではありえない。かといって『恋人』でもないのだ。何故なら、瀬戸口は乞われれば誰とでも『こういうこと』をする男だから。強いて言えば、二人は『男女』になったのだろう。
 ──わたくしはこの人の恋人になりたかった。たった一人の特別に。
 であれば、友達から男女への進展は喜ぶべきことなのだろう。実際、彼と並んでデートをする女性達の姿を、羨ましく眺めたことは一度や二度ではない。…だが、あの落胆の声が自分のものであるのならば、自分はどこかでそんな女性達を蔑んでいたのだ。普段の自分であれば顔を真っ赤にして激怒しそうなことを、壬生屋は冷え切った頭の中で考える。
 ──だってもう、『クラスメイト』でも『喧嘩友達』でもなくなってしまった。
 彼に抱かれる『その他大勢の女』。であれば、『クラスメイトの喧嘩友達』のほうが特別。なんて破廉恥で醜悪な思考だろう。だが、その意識は間違いなく壬生屋の中に根付いていたのだ。…彼に女として見てもらえない自分を鼓舞するための、惨めな特権意識。嫉妬をやり過ごすための、薄ら寒い自己肯定。壬生屋にそういった素養があれば、語彙を尽くして自分をそんな風に罵っただろう。だが、彼女の中にあるのは強烈な自己嫌悪と羞恥心だけだ。言葉になる前に、暴力のような感情が自分を攻め立てる。
 ──嬉しくって、幸せなのに。それも本当なのに。
 男の形の良い唇に触れる。これで何度も口付けられた。綺麗だ、可愛いと、甘い言葉を囁かれた。赤茶けた髪がこんなにも柔らかいことも初めて知った。間近で見つめた菫色の瞳の不思議な色合いときたら。優男を自称しているのに、筋肉質な体のあちこちには正体の知れない傷跡が沢山あった。5121に来る前のものだろうか──そのまま壬生屋の指は瀬戸口の頬を、鼻梁を、髪を、首筋を、胸を辿る。彼の眠りは深いのか、身じろぎひとつしない。何度も名前を呼ばれて、体を繋げた。下半身が気だるく鈍く痛いのは、その間違いのない証だ。──でも、そんな思いをした女は、他に何人もいる。そう思った途端、やはり「あ~あ」という嘆息が、壬生屋の脳内に木霊するのだ。
 ──いいえ。でも、今この瞬間だけは。この寝顔は、わたくしのものだもの。
 彫刻のように整った鼻梁に触れながら、壬生屋はなんとか微笑もうとする。けれど、それは悉く上手く行かなかった。きっと、彼と過ごした女性はみんなそう思っていたのだろう。今夜一晩だけは、今この時だけは、この人は自分のものだ、と。
「…馬鹿」
 ただの友達では満足できなくて手を伸ばしたのに、手に入れたら入れたで、今度は唯一つの特別でないことに腹を立てている。恋とはそういうものなのだろう。心のひとかけらだけでも欲しいと、心の全部を奪って一番になりたい、が節操なく直結している。
 壬生屋はそれ以上考えるのが嫌になって、瀬戸口の胸に頬を摺り寄せて目を瞑る。男の高い体温と、自分たちの情事の残り香は決して心地の良いものではないのに、酷く彼女を安堵させた。





「おはようございます…瀬戸口さん」
目覚めて瞼を刺す日の光に、瀬戸口は信じがたい思いで何度も目を擦った。──夜が、明けている。
「どうしたんです?」
 目の前に佇む壬生屋は、きっちりと何時もの胴着姿だ。髪も整えて、まるで何事もなかったかのようにしている。ベッドの上でぼんやりしている自分とは大違いだ。…ああ、胴着で隠れないような場所に、キスマークをつけてやればよかった。そうしたらきっと…いや、そうではなくて。
「おはよう、壬生屋。体は大丈夫か?」
 出来うる限り優しくしたけれど、彼女は初めてだったのだ。壬生屋は頬をさっと染めると、小さく頷く。
「…少し、違和感はありますけど」
 勝手にシャワーをお借りしました、と付け足すように言われて、瀬戸口は「好きにしていいよ」と言いながら、布団を抜け出す。壬生屋は肩を竦めて自分の拳を眺めている。この状況なので全裸なのは許して欲しい。瀬戸口はあわててベッドの周辺に脱ぎ散らした──いや、綺麗に畳まれていたけれど──下着とシャツを纏う。
「たたき起こしてくれてよかったのに」
「とても気持ちよさそうに寝ていらしたので…」
 そう、それだ。この状況と壬生屋の言を総合すると、彼女は一人で起きて、シャワーを浴びて身支度を整えていたらしい。そして自分は、そんな彼女の気配に気づくこともなく、朝まで熟睡していた。
 ──ありえない。
 壬生屋は知る由もないことだが、瀬戸口はこう見えて事の後に熟睡したことがない。相手が望めば夜明けまで一緒にはいるけれど、常にその眠りは浅いものだった。相手への好悪は関係なく、瀬戸口隆之とはそういう生き物だったのだ。それが
「…やっぱりお前さんは特別なんだな」
「え?」
「お前さんの寝顔をもっと堪能しとけばよかったなって」
 瀬戸口は軽口を叩きながら、壬生屋の秀でた額に唇を落とす。
「ふ、ふ、ふ、不潔です」
「昨日したことに比べたら、可愛いもんだろ?」
 額を押さえてみるみる真っ赤になっていく壬生屋を見ていると、幸せ以外に言い表しようのない感情が胸を満たしていく。──ああ!今すぐ往来に飛び出して、この女を抱いたのだと、自分のものにしたのだと、叫んで回りたい!
 実際にやったら鬼しばきで袈裟懸けにされそうなことを考えながら、瀬戸口は壬生屋の黒髪に指を通す。この黒髪も、胴着の下の白い肌も、桜色の唇も、ずっとずっと触れてみたかったのだ。その全てが叶ってしまった。
「…俺もシャワー浴びてくるからさ。身支度したら、一緒に買い物に行こう。体がつらいなら、お前さんは留守番でもいい」
「買い物、ですか?」
 羞恥に頬を染めながらも、壬生屋は瀬戸口の手を目を細めて受け入れている。その姿が大きな猫のようで、瀬戸口は思わず首の下を擽ってしまう。ふふ、と漏れる笑いに、少し欲情が刺激されてしまうのはご愛嬌だ。
「ん、昨日はまともにメシも食えなかったし…腹が減ったろ?」
「もしよろしければ、わたくしが」
「今ここには生米しかない」
 まあ、と驚きに目を丸める彼女に、わずかな調味料と酒しかはいっていない荒涼とした冷蔵庫を見られてしまったらどうなってしまうのか、瀬戸口はいささか心配になる。やはりお説教コースだろうか。食器も揃いのものなんて一つもないし、そもそも歯ブラシや櫛はどうしたのだろう。男もののブラシで乗り切ったのだろうか。
「おかしいな」
「何がです?」
「柄にもなく、はしゃいで浮かれてる」
 うきうきと、今後のために買い揃えるべきものを考えて、自分は壬生屋と同棲でもするつもりなのだろうか。いや、まあ、それは大変に心惹かれるアイディアではあるのだが。
「──わたくしは未だに、貴方をどんな顔で見たらいいのか、わかりません」
 壬生屋は青い瞳を潤ませて、ぽつりと呟く。初心な彼女らしい言葉に、俺はますます有頂天になってしまう。
「あんなことをしちゃったのに。って?」
「は、恥ずかしいことを口に出さないでください!」
「はは、悪い悪い」
 揶揄するような言葉を投げれば、すぐにいつものお転婆が顔を出す。俺は慌てて壬生屋の黒髪から手を離すと、シャワールームに飛び込んだ。今頃彼女は顔を真っ赤にして、頬を膨らませているのだろう。それを思うだけで、自然と口角が上がってしまう。
 ──可愛い、可愛い、俺の未央。
 情事の最中に何度も囁いた言葉を、口の中でもう一度転がして、瀬戸口は満面の笑みを浮かべた。


オチが…ない…
いやですね。あのねですね。言い訳させてください。
榊ガンパレでですね、あの瀬戸口世界の良心とでもいうべき、善良な瀬戸口兄貴ですら、未央ちゃんにキスしたことで告白したつもりになってたじゃないですか。であればゲームの世界線の瀬戸口くんと壬生屋さんだったら、一線を越えても告白がないと割りと意識に乖離がありそうじゃない?大丈夫?と思って書きました。というか二人の乖離が書きたかったんですよ。
浮かれてる瀬戸口君と、素直に喜べない未央ちゃんっていう。これはこの後絶対にひと悶着あるな…






by haruyi | 2019-06-09 19:03 | 書物

独り言のようなそうでないような


by haruyi