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替りなどいない。

「おまえを生かした人間にすべて替えがないと知るなら、おまえは死ねない」

シュトヘル 14 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

伊藤 悠/小学館

完結しましたね…素晴らしかった…。
タイトルにしたのは誰の台詞か書くとネタバレになりそうなんですけど、14巻の中で一番好きな台詞です。
本作は「文字」と言うものの意味、その尊さが主題でした。
しかしその一方で、
「人の命を犠牲にしてまで守るべきもの(文字)が本当にあるというのか」
「文字が存在する限り、消えない呪いの言葉がある」
「文字はしかし、人の営みになくてはならないものではない」
という、たくさんの問いかけもありました。それに対してユルールの見つけ出した答えが、あの最後の手紙だったのだと思うと、本当に胸熱で…
代わりのいない自分は、しかしいずれ死ぬ。けれど文字はその死後も残る。だからこそ絶やせない。
代わりのない命で生かされた自分がいる。だから死ねない。
そういう連綿とつながっていく人の思いを描いた、凄く素敵な作品でした。
私はやっぱりナランとトルイの双子がすきなんですが、しかし悪役に至るまで憎めない…それこそタイトルじゃないですけど、皆が皆卑近であろうと、恩讐であろうと、唯一の願いを抱いて生きている様が愛しかった。
あと最後の居酒屋コーナーが大好きで…良かったねぇベロニカ…

やや駆け足だったけれど、この最後自体は多分最初から決まっていたんじゃないかなぁ…という印象。
(あくまで私の思い込みです。すみません)
勝ちたくないわけじゃないけれど、それが第一目的ではなくて、とにかく一生懸命に、楽しくダンスをする主人公ペアの姿が大好きだったので、最後までそれがブレないのは本当に良かった。
他のみんなも可愛くって、キャラが立ってて、もっと見ていたかった…スピンオフ欲しいくらい(笑)
読んでるとこっちがニコニコしてくる最高の作品でした。


「優しさ」の強さ。

鬼滅の刃 1 (ジャンプコミックス)

吾峠 呼世晴/集英社

最新刊まで一気読みしました~面白かった~。
「鬼」という人を食らうバケモノが出る世界。主人公の少年は鬼に家族を皆殺しにされる。唯一生き残ったかに思えた妹も、血肉を欲する鬼と化していた…というお話。
主人公のたんじろうは、妹を元に戻すために「鬼滅師」という鬼を打ち倒すための組織の一員になるっていう、流れ事態は非常にスタンダードな作品なんですが、とにかく、とにかくたんじろうの「優しさ」が凄い。
鬼と言うのは元来人で、それぞれ事情や望みがあって鬼になるんですが、たんじろうは相手が鬼であっても「相手が大事にしているものを損なわない」を徹底するんですよ。相手の価値観を損なわないというか…勿論、非道な行いには憤るんですけど、「倒そう」という思いよりも「楽にしてあげよう」という気持ちが先んずるというか…
物語の核がというか、物語を動かしていくのは常に彼の優しさなんですよね。その優しさが鬼を苛立たせる。癒す。救う。殺す。
設定もお話も、本来殺伐として苦しいもののはずなのに、たんじろうの優しさが物語をどこか穏やかに照らしてるんですよね。いやもうほんと凄い…
コメディパートも面白いし、(正直善逸ちゃんとか残念の塊みたいなとこある)続きも楽しみだなぁ。



さてさて瀬戸壬生。ツイッターでちょろっと呟いた妄想が膨らんだ作品です。

「未央は俺の事大好きだもんな?」
 それは、食事の後の他愛のない恋人の戯言で。いつもの壬生屋であれば、少し恥ずかしがりながらも「勿論です」と答えただろう。少し機嫌が悪ければ「そういう事は軽々しく口に致しません」といなしただろうか。
 だが、その時ばかりは違った。心の巡り会わせと言う他ないが、胸のうちに刺さったままの棘がちくりと痛んで、壬生屋の喉を塞いだのだ。
「もちろん――」
 壬生屋は自身の声の弱々しさに驚いてしまった。しかも、声が震えて上手く言葉を紡げない。どうしたことだろう。
「どうしたの、未央」
 瀬戸口の顔からも、悪戯っぽい微笑が消えている。壬生屋は「なんでもない」と言おうとして、やはり失敗した。代わりに溢れてきたのは涙だ。
「未央?」
 瀬戸口が何度も自分の名前を呼ぶ。優しい指が、丁寧に涙を拭っていてくれるのがわかる。嬉しいと思うのに、涙はちっとも止まらない。壬生屋は戸惑いながらも、この涙の原因に思い当たっていた――いや、片時も忘れたことなどないのだ。『それ』は常に喉に引っかかった小骨のように、ちくちくと心を刺す。もう思い出の中にしかない痛み。けれど、その棘は永遠に消えることはないのだろう。目の前の――今は涙でぼやけて見えないけれど――この男への恋慕が消えうせない限りは。


「アンタ、俺の事が好きなんだろ?」
 多分の毒を含んだその言葉に、壬生屋は一瞬頭が真っ白になった。その次に押し寄せてきたのは、途方もない羞恥だ。数多の女子高生を侍らせて仕事場を去ろうとする瀬戸口を、「不潔です。仕事は終わったんですか?!」と糾弾した後に返されたのが、先ほどの戯言だ。当然、ここにいるのは自分達二人ばかりではないではない。
「っ何を、言って」
「素直に行かないでって言えばまだ可愛げがあるだろうに」
 瀬戸口は笑っているけれど、それはどう見ても嘲りの笑顔だ。彼の周囲にいる少女達の反応は様々で…戸惑う風情が殆どだったけれど、彼と似たような笑顔を浮かべる子もいる。
 ――辱められている。
 そう言葉にすれば、目の前の男は「被害妄想が過ぎる」と尚笑うだろう。だが壬生屋には、それ以外の感想が浮かばなかった。子どもっぽい自分の好意、そしてそれへの自己嫌悪。歪で繊細な感情が、引きずり出されて、好奇の目に晒されている。この男は、それら全てを意図的にやっているのだ―ーわたくしの事が、嫌いだから。
 壬生屋はあふれ出しそうな涙を、唇をかみ締めて堪えた。声が震えないように、あえて甲高い強い声を出す。
「誰が貴方みたいな、不真面目な殿方なんて!」
「ま、俺もお前さんみたいな女、願い下げだけど」
 嘲笑さえ消えた冷たい顔でそう言われて、壬生屋はもう何も言えなくなってしまった。ただもう必死で、涙が出ないように出ないようにと祈りながら、瀬戸口を睨みつける。泣きそうなことも見透かされているのだろうか。瀬戸口は「じゃあな」と言い残して、去っていく。自分には決して見えない優しい笑顔を廻りに振りまいて、安堵を含んだ少女の高い笑い声が、壬生屋の耳にも届いた。華やかなその気配は、一人残された壬生屋を更に打ちのめす。俯けば、とうとう涙が頬を滑り落ちた。


 
 目の前でぼろぼろと零れ落ちる壬生屋の涙に、瀬戸口はただただ途方にくれて、その涙を拭ってやることしかできなかった。壬生屋の青い虹彩は涙に塗れると、そのまま解け落ちてしまいそうな不思議な艶を放つ。それは美しいけれど、いつだって瀬戸口の胸を刺し貫いた…壬生屋が涙ながらに話した思い出には、瀬戸口にも覚えがある。
 あの頃の自分は愚かで、そのくせ壬生屋の恋情を知悉した最低な男だった。壬生屋が泣くのは、自分が好きだからだ。傷つけても尚、彼女が自分に歩み寄ってくるのは、まだ自分の事を嫌いきれていないからだ。それを鬱陶しく思いながら、今度こそと壬生屋を傷つけた。いまだ自分の言葉に心動かされる彼女に、途方もない安堵を感じて…ソレに気づいて、もっと自分が嫌いになる。泥沼だ。
「ごめんな。未央」
 何度目かの謝罪の言葉に、壬生屋はふるふると首を振る。
「わたくしは、もう、そんなの」
 気にしていない、と続けたいのだろうか。だが、それが真実でないことは、今この涙が証明している。現在がどうであろうと、吐き出された言葉は、態度は、決して無には帰さない。そしていつだって、傷つけたほうはそのことを忘れ、傷つけられた方にばかり深い爪痕が残るのだ。先ほどの台詞だって、瀬戸口は忘れてはいなかったけれど、壬生屋がこうして涙しなければ、思い返すことなど生涯なかっただろう。
「…未央、ごめんな。もう二度とあんな事言わないから」
 壬生屋の胸のうちには、自分が指した棘が、あとどれほど残っているのだろう。いつかその傷が膿んで、自分の事を心底嫌いになってしまったら、そう思うと瀬戸口は足が竦んでしまう。一方で、自分がつけた傷を抱えたこの女が、愛おしくてならない。相も変わらず、酷い矛盾だ。
「わかって、ます。あれは全部、昔のこと、だって」
 瀬戸口は壬生屋の涙に唇を寄せた。強がりを封じるように、唇にも口付ける。
「――お前さんは好きなだけ泣いていい。俺の事を詰ったって、張り倒したっていい。その権利がある」
 きっと彼女はそれを望まないだろう。だとすれば、自分はただただ只管に、棘の上に誠実な言葉を積み重ねていく他あるまい。
「今の俺は、未央の事が大好きだよ。世界で一番、愛してる」
「わたくしだって」
 鼻先を触れ合わせて愛の言葉を囁けば、壬生屋はようやく笑みらしいものを零す。
 ――本当は、あの頃だって君の事が大好きだった。世界で一番特別だった。だから傷つけた。
 それはただの言い訳で、絶対に口にしてはならない言葉だ。彼女の事を好きでいる限り――それはつまり、生涯に渡ってということだが――自分はこの罪を抱えて生きていくのだろう。それは酷く幸せなことだ、と瀬戸口は思う。
「…俺の生涯をかけて償うよ」
「貴方はいちいち大袈裟なんです」
 涙の残る青い瞳は、宝石のように煌いている。それに見蕩れながら、瀬戸口は再び彼女に口付けた。


まあ瀬戸壬生のアイの言葉は常に重くて大袈裟でベタ甘ってことで一つ。
あのツンツン瀬戸口の黒歴史は、出来上がった瀬戸壬生の間ではどんな扱いになっているんだろうなぁともふと思った結果でごさいます。

ひさびさの更新になってしまいすみません。主にFGOのせいです。
まだ人理修復終わらないから…

拍手ありがとうございます。更新お待たせしました。楽しんでいただければと思います。

by haruyi | 2017-09-10 19:58 | コネタ

独り言のようなそうでないような


by haruyi